3 随筆 個性に触れる

赤瀬川原平『老人力全一冊』

力まず威張らず「まっ、いいか」

(ちくま文庫、2001年9月)

 筆者は10月に77歳で死去された。訃報記事を読みながら「この人の『老人力』の連作、読んでなかった」と気づいた。本屋さんへ行ったら連作をまとめた「全一冊」というのがあり、嬉しかった。しかも文庫である。

 洒脱なエッセイ集である。力まず、威張らず。親しみと尊敬を込めて「原平さん」と呼ばせてもらおう。

 原平さんの自宅は『ニラハウス』の名で知られ、建築史家でスタートし建築家にもなった藤森照信氏が設計した。イラストレーター南伸坊氏を含む3人は路上観察学会でも有名になった。3人とも団塊の世代である。やることなすことがみな洒落ている。まぶしいほどだ。

 原平さんが冒頭の『おっしゃることはわかります』を書いたのは1997年6月とある。1937年生まれだから当時60歳、還暦だった。ぼくとほぼ同じ年代のころに、これらのエッセイを書いたことになる。

 書いたというより、「老人力」という新しい力を”発見”して名づけ、世に勘違いと混乱を巻き起こしたらしい。この言葉だけなら「お年寄りにはまだこんなにパワーや可能性がある」という意味にとりやすい。「お年寄りの潜在力を発揮するには」みたいなノウハウも期待してしまう。ぼくも実はそんなとらえ方をしていた。

 ところがどっこい、原平さんのいう「老人力」はこんなことだ。

  • モノを忘れたり覚えられなくなっても「まっ、いいか」とうっちゃれる力
  • どんな重大な局面になっても、力を抜いて臨める力
  • 「あーあ」とため息をついて疲れを取る力
  • 嫌なものも含めて忘れてしまえる力

 ボケや認知症と称される老人化にはポジティブな面もたくさんある、という逆転の発想である。口が悪い人は、開き直り、と称するだろう。でも、ぼくはこれを読んで、すごくほっとでき、力が湧いてきた。

 それにしても原平さん、仕事の幅が広い。知的好奇心も半端ない。書かれている内容は「老人」を超え、宇宙にまで自在に広がっている。

 この本は、そのあとの「~力」本の走りにもなったといっていいのだろう。『悩む力』(姜尚中、2008年)、『聞く力』(阿川佐和子、2012年)など、いずれもベストセラーになっている。

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