男と女 本質はきっとこのあたりに
(新潮文庫、初刊は1981年)
枕元に置く本が切れた。でも何か読みながらでないと寝入れない。本棚に近づき左から右へと筆者名に目を走らせていく。藤沢周平の文庫コーナーで目がとまった。背表紙の題名を眺めていき、抜き出したのがこれだった。恥ずかしい話だが、内容をよく覚えていなかったからだった。
12の短編集が収められている。記憶が薄いのも無理がないか。短編集でも『たそがれ清兵衛』のような著名作品が入っていれば覚えているのだが。
読み直してみると、やはり、別格の藤沢周平の世界が広がっていた。どの作品の舞台も長屋である。描かれるのは女性とその視線。読後感が明るい作品もあるが、多くは「暗い情念」が重く残る。
ひとのいとなみや男と女の本質はきっと、このあたりにある―。そんな思いがしみわたる。