「収益至上」の世 あえてGNNを核心に
(集英社、2016年7月)
経済小説の人気作家による最新長編である。ぼくがこの作家を読むのは2年前の『下町ロケット』に次いで、まだ2冊目だ。
100年もの歴史がある足袋会社がランニングシューズづくりに挑戦する。資金や信用はないけど、人と人のつながりや信頼、技術、情熱が解決策をつれてくる。『下町ロケット』のシューズ版といっていいだろう。
もちろん小説の大きな枠組みは、いまの社会の資本主義やグローバリズム、企業の収益至上主義を前提としている。現場で交されるやりとりや空気、言葉遣いにもリアリティがある。この作家ならではの筆力だろう。
それでも、この作家がど真ん中にすえるのは「義理人情浪花節」(GNN)である。それがもたらす波紋や葛藤、格闘、競争が物語になっている。
多くの経営者やサラリーマンが個人ではGNNを大切に思いながら、現場では実践が難しいと痛感しているのだろう。ぼくもそうだ。それがこの作家が読まれている理由のひとつなのではないか。