5 映画 銀幕に酔う

米映画『市民ケーン』

天才映画人が戦前に描いた新聞王

(オーソン・ウェルズ監督、米公開は1941年)

 愛知がんセンター入院中の名作見直しシリーズ第1弾。以前から気になっていた、あまりにも著名な作品。がんセンター1階のDVD貸し出しコーナーでぼくを呼んでおり、病室でじっくりと観ることができた。

(▲「世界映画名作全史」から)

 なんと制作は戦前、1941年だった。頭の中では戦後の映画と思っていた。あのオーソン・ウェルズが26歳で何から何まで手掛けていた。しかも作品のモデルは米国の戦前の新聞王ハーストだったなんて、恥ずかしいけど知らなかった。

 主人公は「バラのつぼみ」というなぞの言葉を残して死んだ大富豪。貧しい下宿屋に生まれたが、母が宿代のかわりに権利証をもらった鉱山から金が発見されてとんでもない金持ちに。大学を出て選んだ仕事が新聞だった。

 スキャンダル報道で部数を伸ばすが、やがて落ち目に。女優への愛とか、大学時代からの友人との関係など、いまにもつながる普遍の価値にも映画は踏み込んでいく。カメラワークはいま見ても斬新だ。

 主人公は嫌味な男ではあるが、そのぶん魅力もある。押しが強く独断的だが、そのぶん行動力がある。弁もたつが、愛には恵まれなかった。そんな男の人生を若きオーソン・ウェルズが憎らしいほどうまく演じていく。

 当時の新聞社の描き方も面白い。戦前の米国なのに、ぼくの若い時代の編集局の様子と共通点が多く、おいおいそう出るかと同じ目線で見入った。1面記事の扱いをめぐる新聞人のやりとり、差し替え、早版、ライバル意識などなど…。

 この作品は公開時、アカデミー賞に多部門でノミネートされたものの、ハースト家の反対によって一部門のみの受賞に終わったと後でネットで知った。しかし戦後もずっと、歴代映画ベストテンといった選定の際にはいつもランクインする名作とされてきた。うなずける。

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