ピンチをチャンスに 星野源の青春時代劇
(松竹、2019年公開)
なんたって、人気者でマルチなあの星野源が主演する映画だ。しかもぼくの好きな時代劇ときた。いったいどんなことになるのやらとどきどきして観たら、しっかりと星野源の世界になっていた。時代劇をフレームにした星野源たちのバラエティでありミュージカルコメディだった。
この種の物語では、参勤交代を扱った浅田次郎の『一路』がもっとも面白かった。江戸への旅だけであんなに大変なのに、国替えとなると、どんな困難が侍サラリーマンたちに降りかかっていたかは想像に難くない。あの松平家が何度も引っ越しを命じられていたなんて、この映画まで知らなかった。
星野源は書物が大好きで「図書館司書」といった仕事だった。剣はからっきしだめ。それなのに友人(高橋一生)の思い付きで、その困難さに立ち向かう奉行役が星野源にまわってくるところから、ドタバタが始まる。
その高橋一生は、女と酒には弱いが、腕っぷしが強く男気もある武士を演じ、準主役の立ち回りだ。彼本来の持ち味と役はかなり違う気がしたが、張り切って演じきるプロ根性に好感がもてた。
元引っ越し奉行を父に持つ娘(高畑充希)が、戦略家として星野奉行を支える。出戻りで息子がひとりいて、しっかり者で勝気な性分。こちらは持ち前のからりとした明るさとチャーミングで多彩な表情を前面に出すことで、ドタバタ劇がバタバタ演技ばかりに陥らない、ぎりぎりの水準を保っているように見えた。
ピンチをチャンスに変えていく若者の成長物語でもある。その際の武器は、真剣さと真摯さと正直さにプラス、知恵と友人。うーん、そのあたりは『一路』と同じじゃないか。そうまとめたくなるのはぼくの性癖であり、67歳という年齢なのだろう。
もともと映画館で観ようとしたが、気がついたら終わっていたので、DVDを借りて自宅で妻と観た。