1 ゴルフ 白球と戯れる

タイ映画『頂へのティーショット』

マイペンライの国に星一徹?

 (タナワット・アイエムジンダー監督、2019年)

 タイ出身の女性ゴルファー、ジュタヌガーン姉妹の伝記映画である。妹のアリアは2016年にタイ人として初めて米LPGAツアーで優勝し、世界ランキング1位にも上りつめて世界に驚きを与えた。姉のモリヤも米ツアーで活躍している。その陰にはスパルタの父がいて、親子には葛藤もあった―。

(▲イメージ画像)

  映画の冒頭では、地元タイのパタヤで2013年に行われたホンダLPGAタイランド最終日の実際映像が流れる。アリアは2打リードのトップで迎えた18番で、グリーンわきバンカーからのショットが大きすぎ、最後の約2mのパットもカップ左側を半回転してけられる。 痛恨のトリプルボギーで「地元でのLPGA初優勝」という金字塔を逃してしまう。そこが一家の苦しみと再挑戦の出発点になった、という構図だ。

葛藤と苦難を乗り越えて

 姉妹が育ったバンコクでのスパルタぶりが興味深い。父親の監視のもと朝4時半起床でランニングをし、学校を早退して練習場で夜まで打ち込み。甘いものは食べさせてもらえず、足首にはウエイトをつけている。日本の中高年ならすぐに「巨人の星の星一徹」を思い出すだろう。

 タイには特派員として3年駐在した。この姉妹が大ブレークする15年以上も前。当時の経験からすると、こんなスパルタ親父がタイから生まれたのかと驚いた。タイ人はみなおおらかで困りごとも「マイペンライ」と微笑んでやりすごす気楽な気質にみえた。それがあの国の魅力でもあった。

 だからこの親子のような「スポ根」は韓国ではありえてもタイでは無理と思い込んでいた。しかしこの父は全財産を処分して米国へ移住し、娘を世界一のプロゴルファーにするという目標に向けて妥協しない。タイ生まれ育ちから世界一がなぜ出たのか疑問だった。そうかこの親父がいたからなのだ。

 もちろん姉妹たちは成長するにつれ強権発動の父に不満を覚える。アリアもパタヤの18番の失敗をきっかけに、指導者やコーチ選びをめぐって大喧嘩になり、父はすべてを投げ出してタイへ戻ってしまう。さらにアリアは右肩の脱臼と手術という試練にも見舞われる。

 このあたりの葛藤がこの映画の最大のヤマ場だ。悩んだ末にアリアは思い切って父を訪ね、気持ちの上で和解してから米ツアーに戻る。

 初勝利となった2016年の試合も、1打差リードで迎えた18番(パー4)では、3年前の悪夢と同じ試練が待っていた。2打目をバンカーに入れたのだ。しかし今度は脱出ショットとパットを見事に決めて映画は終わる。

 ただこうしたプレーシーンは、俳優が演じているところはどうしても素人感をぬぐえない。アングルを工夫したりパットの場面を増やしたりして、なんとかプロの試合としての臨場感を保つ工夫がされている。

「勝つには飛距離だ」

 これは本当かなと思ったのは、アリアが練習でドライバーを振ろうとする直前、父親が何度も「勝つには距離だ」と耳元で呪文のようにささやくのだ。4回ほど出てくるから本当なのだろう。実際のマリア選手は米ツアーでも屈指の飛ばし屋として有名、と後でネットで知った。

 タイのテレビ局が案内役のような立ち位置で出てくる。最初はゴルフ知識がほとんどない男性記者が等身大でいい。デスク役は父親の兄弟という設定だ。実際の映像も使っているのでテレビ局の取り込みは正解だった。

 この映画そのものは、ぼくの予備知識はゼロだった。長男夫婦の勧めでネットフリックスを利用することになり、どんなゴルフ映画が観られるか検索したらこの作品を見つけた。そういう時代になったのだと実感した。

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