
「父の愛用品」友人から譲り受け
友人のTさんから「父の愛用品」というKenneth Smith のクラブセットを譲り受けたのは昨年の冬だった。ウッドのヘッドはパーシモン(柿の木)で、濃い柿渋色の丸顔と埋め込まれた象牙に気品が漂う「幻の名器」だ。先週の26日、パーシモンのクラブで競うコンペに誘われ、初めてコースで打ったら、芯を喰った時の余韻は現代クラブにない打感だった。「お礼に体験記を書きます」。譲り受けたときの約束をやっと果たすことができた。
(2026年3月26日、藤岡カントリークラブ)
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友人から「もらってくれない?」
友人のTさんは元商社マンで、ぼくが中日ビル建て替えの責任者だったときに知り合った。ぼくが退職し5年たった2024年12月、こんなメールをいただいた。
(Tさんからのメール)
父が楽しく使用していたケニースミスのゴルフセットを廃棄すると言っております。私はゴルフにキーン(団野注:熱心)ではなく、中古で綺麗ではありませんが、貴重ではないかと思い、団野さんでお楽しみ頂けないかと思いメールを致しました。
綺麗に包装してあるのでドライバーしか出していませんが、たまにはパーシモンでゴルフを楽しむことはありませんか? もし、お引き取り頂けるようでしたら、ご送付申し上げます。購入時は100万円以上だったようです。
思ってもいなかった話だった。末尾の「100万円以上」には息をのんだ。ネットで「ケニー・スミス」を少し調べてから、こう返事した。
お礼に「体験記 書きます」
(Tさんへの返事メール)
今回の「Kenneth Smith」のクラブの件、とても驚きました。
最初の驚きは、Tさんのお父さんがゴルフ好きだったことです。お聞きしていたのかもしれませんが、恥ずかしながら、記憶にありませんでした。次の驚きは、お父さんがこんな名品でプレーを楽しんでいらっしゃったことです。三つ目は、そんな貴重なクラブを私に、とおっしゃってくださったことです。とても光栄ですが、戸惑いもあります。
ぼくは、ゴルフ好きは自認していますが、実は、クラブ(ギア)へのこだわりは弱いです。25年前のバンコク駐在時にゴルフにはまったときから、ずっとCallawayを使い続けています。(中略) 今回の「Kenneth Smith」も、実は、ブランド名は見たり聞いたりしたことがあるようなないような、あやふやな記憶しかありませんでした。
ネットで検索すると、かなりの著名クラブで、確かに1セットが100万円以上したとの記述もありました。ぼくには信じられない、桁違い、異次元の価格です。
そこで確認です。Tさんがお使いになるのがいちばんふさわしいと思いますが、ほんとうに手放してよろしいのでしょうか。(中略)
もし私がお引き取りした場合、次のような利用法がベストかと思います。
・Kenneth Smith のクラブでラウンドしてみる
・そのうえで体験記を書いて、ホームページ『晴球雨読』にアップして公開する
・ぼくの書斎の隅に並べ、目でも愉しんでいく
お父さんともう一度ご相談のうえ、ご検討ください。これ以上の話は、お目にかかって会食しながら、ということでいかがでしょうか。新年会を兼ねて年明けに会食しませんか?
年が明けて2025年1月に会食した。Tさんとお父さんのご意向は変わらず、ぼくが譲り受けることになった。

Kenneth Smith のセットは1月下旬、宅配便で自宅に届いた。開封して和室の床の間に立てかけた。美しい。そして気高い。掛け軸や正月飾りともよく似合った。(写真1)
柿渋の艶 白の対比 洗練ロゴ
それから春にかけて、床の間のKenneth Smith をながめ、1本ずつ握ってワッグルしながら、考えた。この気品と存在感、にじみ出る磁力、源泉はどこか―。
パーシモンの渋黒と艶
4本のウッドはどれもなだらかな曲面を持っていて、柿渋の濃い茶色に黒縞がまだらに沈殿している。表面にほどこされた艶がなまめかしい。(写真下)


きりりシャープな白も
フェースには象牙と思われる白い部材、底部にはスティールがはめ込まれている。曲面とのつなぎ目はシャープで、ヘッドの面立ちをきりりと引き締めている。(写真上)
ブランドロゴの洗練
どのクラブにも「Kenneth Smith」のロゴが刻印されている。ふたつある「th」に引かれた横線が特に好きだ。右上へ跳ね上がりに洗練された動きを感じる。(写真下)


グリップの柿渋螺旋
14本のクラブには同じグリップがついている。素材は細長い黒ラバー。ラバーの幅は2cmほど、端の4mmだけ柿渋色になっている。それがシャフトに螺旋状に巻きつけてある。ウッドの柿渋色と共鳴している。(写真下)


フェースの真ん中に刻印
ウッドには「◎」が、アイアンには「〇」と「↓」を組み合わせたマークが、ど真ん中に刻印されている。「ここが芯だよ」と呼びかけている。(写真下)


これらの造作は、みんな手作業だ。ロゴに入れてある「Hand Made To Fit You」が目に染みる。
米国で1916年創設 2004年終了
そもそも「Kenneth Smith」って何なのか。ネットで検索すると、中古クラブの通販サイトにたくさん出てくる。ゴルフ好きのブログにもちらほら登場する。それらを拾い集めると、こんな歴史や横顔がうかぶ。

■ Kenneth Smithというのは、米カンザスシティのクラブ職人の名前。1916年に同名のブランドを創設、1928年に生産を始めた。本人は1977年に死去し、会社も2004年に製造を終了した
■ すべて手作業で製造され、セットごとに識別番号がついている
■ クラブバランスという考え方を初めて導入。ステンレス鋳造のアイアンも初めて取り入れた。
■ 日本では当初、東京の老舗店「銀座ゴルフ」だけで売られていた
■ 現代では「幻のクラブ」「ゴルフクラブのロールスロイス」とも称されている
いまぼくの手元にあるセットの製造年はわかっていない。「211040」という認識番号が製造年を指すのかも判断材料はない。Tさんのお話やネット情報から、1980-90年ではないかと想像している。
マイセッティングとスペック比較


ぼくの現在のセッティングとのスペック比較表を作ってみた(写真上)。すぐにわかる違いは次の3点だろう。
パーシモンvs合金
ウッドヘッドの素材はKenneth Smithがパーシモン(柿の木)。ぼくのCallaway Paradymは合金(鉄+クロム+ニッケル、チタン+アルミ)を使い、飛距離と安定性を上げている。
ヘッド体積は現代の1/4 ?
ぼくのCallaway はカタログによれば460㎤もある。Kenneth Smithは不明だが、フェースだけでも半分くらいなので、体積では4分の以下だろう。(写真下)


マッスルバックvs中空
アイアンのヘッドの形はKenneth Smithがマッスルバック、ぼくのCallawayは中空タイプで中に充填素材を入れボールを上げやすくしてある。
もちろんロフト角度やシャフトの素材と硬さもまったく違うのだろう。Kenneth Smithの数値はわからない。わかっても違いを判断できる知識はぼくにはない。
所属倶楽部の練習場で何回か打ってみた。現代クラブと交互に打ち、違いも確かめながら。「距離」はかなり落ちる。芯に当たれば気持ちいい球が出るが、確率は低い。
ゴルフを始めた40年前、初めて買ったドライバーもパーシモンだった。あのころの感触を思い出しながら、思った。コースに出て打ってみたい。そう願いながら、競技ゴルフに集中し、機会がないまま1年が過ぎてしまった。
パーシモン愛好者コンペ
倶楽部メンバーから誘い
ことし3月初めだった。「PLAY PARSIMMON コンペに参加してみませんか ? 」。同じゴルフ倶楽部のメンバーであるFさんから、こんな誘いの手紙をいただいた。次のような「条件」つきのコンペだという。
<ウッド> パーシモンヘッド + 原則スチールヘッド
<アイアン> マッスルバック + スチールシャフト
<パター> L型かT字かマレット
Fさんはヒッコリーなど古い道具と服装に愛着があり、詳しい。ぼくのKenneth Smithも一度、見てもらっていた。条件は満たしている。「やっとコースで打てる」。すぐに参加希望を伝えたのは、言うまでもない。
距離2割減 FWキープ率93%
そのコンペは3月26日(木)、愛知県豊田市の藤岡カントリークラブで開かれた。パーシモンに愛着を持つゴルファーが14人、参加した。同じ組には、なんと、ぼくと同じKenneth Smithのクラブを入れている人がいて、うれしくなった。(写真3)

この日ぼくは、Par3以外の14ホールでドライバーを振った。練習場での打ち比べから、ふだんのCallawayと比べて飛距離は2割ほど落ちると感じていたが、コースでもその通りだった。ぼくのキャリーはCallawayなら190ヤード前後だが、Kenneth Smith は150ヤードを越えるのがやっとだった。


想定外だったのは方向性だった。まっすぐ出ていき、しかもほとんど曲がらない。14回のうち13回はフェアウェーをキープできた。(スコア表参照)。その率は92.9%。「2025年 ぼくの『する』ゴルフ」は55ラウンド、FWキープ率は平均53.9%だったから、すごい。飛ばない利点でもあるのだろう。
飛距離が出ない分、スコアをまとめるのは難しかった。アイアンやウェッジは、慣れていないこともあり距離をあわせづらかった。T字型パターも後半には乱れ、4パットもあった。昨年1年の平均スコアより9打多かった。
芯喰い2度 残る快感 長い余韻
この日の14回のドライバーのうち、「芯を喰った」と感じることができたショットが後半インで2度あった。そのときの感覚を文字にすると―
ドライバーを振り切った瞬間、両手のひらを通じて、ヘッドのフェースがいつもより長く球をとらえていた感じがあった。さらに、左足に体重を乗せてフィニッシュ体制をとりながら、いつもより低く飛んでいく弾道と落ち際を見つめている時にも、クラブの細かな残振動を通じて「間違いなく、芯でとらえた」という余韻が続いていた。ゴルフを始めた40年前もパーシモンだったが、こんな手応えを感じたことはなかった。


<▲写真 (左)ぼくのティーショット=Fさん撮影 / (右)柿渋と白の対比が美しい>
「やっときちんと打てた…」。カートに戻り、そうつぶやくぼくに、同伴者が「いい音でしたね」と声をかけてくれた。ぼくが見つめているヘッドを横から覗き込みながら、彼もつぶやいた。「やっぱ、きれいですねえ、このヘッド」。
あのとき感じた快感と余韻は、4日後のいまも、この手のひらにしっかりと残っている。ありがとうTさん、お父さんにこの感激を伝えてください。そしてFさん、こんな機会を与えてくださり、ありがとうございました。
