コアなファン向け 剣法シーンが命か
(元木克英監督、公開2019年5月、ミッドランドシネマ)
ぼくはこれまで、佐伯泰英の居眠り磐音シリーズには膨大な読書時間を注ぎこんだ。磐音と奈緒、おこんの物語に癒され、励まされ、ともに成長してきた。映像化された磐音を観るのは、NHKテレビの山本耕史主演ものに続いて2度目になる。妻と名古屋駅で観た。
この映画はシリーズの最初の6巻ぐらいまでを2時間にまとめている。NHKは確か、2部にわけて計10回は放映していた。映画はテレビよりも時間が短い分、要素を詰め込みすぎていて、原作をしっかり読んだぼくには荒っぽさは否めない。
大まかなストーリーを知っている妻も、冒頭で伸之輔が3年半ぶりに逢ったというのに妻の舞をひとことの弁解も聞かずに切り捨ててしまうところで「あれはないよお」と躓いてしまったらしい。3人の若者の友情とその姉妹たちの親愛が破壊された原点だけに、もっとていねいに描いてほしかった。
奈緒が吉原の大夫にまで昇りつめる過程も、もうすこし説明がないと初めての観客にも響かないのではないだろうか。
となるとこの映画は、ぼくみたいに原作に浸りきったことがあるコアなファンに向けた作品だと解釈すればいいのだろう。そうだとすると、小説では伝えにくい剣術のダイナミックなシーンとか、タイトルにもなっている「猫が縁側で日向ぼっこしているような」「居眠り剣法」の映像が命といえるのかもしれない。
主演の松坂桃李は、ぼくの磐音のイメージだった山本耕史とはまた違う剣士像に挑戦していた。少し後で観た『新聞記者』での、迷う公務員役の方が彼によりマッチしていた気がぼくにはする。