5 映画 銀幕に酔う

邦画『万引き家族』

ひとことではくくれない でも腹に響く

 (是枝裕和監督、2018年公開)

 期待を裏切らなかった。というより深化している。これまで是枝作品は『だれも知らない』『そして父になる』『海街ダイヤリー』『海よりも青く』『第三の殺人』と続けて観てきたけれど、はるか上の、いやはるかに深い世界にたどり着いている。
 カンヌ映画祭の位置づけはぼくにはわからないが、パルムドールとかいう賞に輝いたというのもわかる気がする。

 事前に読んだ朝日新聞の紹介記事は、是枝監督の作品を「複雑系」と評していた。だれでもわかるようなメッセージを残したり、終わり方をしない。AもあればBもある。いやA’もあればB’もあるかもしれない。観た側はそんな余韻が残るというか、そうした考え方をさせられる。

 その通りだった。ましてや人と人、親と子、男と女のつながり方となれば、ひとことで片づけたり、くくれるものではないだろう。そんなことも思う。
 この映画の「万引き」というキーワードは単に、生活の足しにするための稼業のことではない。この家族のどの関係も、だれかから何かを盗んだり、引っこ抜いてきて成立していることを意味している。そのことが、見終わってわかった。すごく腹に、響く。

 さらにいえば、キレイごとの価値観を押し付けてくることは今回もなかった。血よりもきずなの方が大事だとか、お金よりも信頼感が大事だ、みたいな単純で倫理的なメッセージの次元にはおさまっていない。

 プライムツリー赤池の東宝シネマズで妻と観た。平日休みの夕方だったけど結構な込み具合で、人気の高さがわかった。パルムドール効果かもしれない。

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