敗戦直後の暗さと情念 わが東舞鶴も舞台に
(内田吐夢監督、1965年公開、DVD)
終戦直後に津軽海峡で起きた洞爺丸沈没事件を背景にした名作。内田監督が描く昭和20年代から30年代の様子が生々しく、懐かしい。
3月に見直した『砂の器』ほどの抒情性や社会性はないけれど、白黒反転の映像には強烈なインパクトがあり、戦後のすさんだ心を映し出している。
洞爺丸が沈没したのは昭和22年、事件が大きく動くのが昭和33年である。昭和33年というとぼくは6歳。その後の知識とあわせて「赤線廃止の年」「長嶋茂雄のデビュー年」「第1回レコード大賞『黒い花びら』のヒット年」としてぼくの中では深く刻まれていて、映画が再現する当時の匂いにも引き込まれる。
俳優は高倉健、伴淳三郎、三国連太郎、左幸子とその後も大活躍した人たちばかりだ。高倉健は東舞鶴署の刑事。若い時から輝いていたことがわかる。東舞鶴はぼくが生まれて高校まで育った街だ。
この映画のラストが東舞鶴なのは前から知っていた。知ったのが、まだ舞鶴にいたころか、大学生として名古屋に出てきてからかは思い出せない。
津軽で事件を起こした犯人がなぜ東舞鶴に落ち着いたのかについて、引揚者が街にあふれていて潜りこみやすかったという話が出てくる。なるほど、そういうことか。わが舞鶴はそういう街だったのだ。
原作は水上勉。舞鶴とは山ひとつはさんだ福井県の村の出身だ。舞台に舞鶴を選んだことも、映画に滲みこんだ独特の暗さや情念も、やっぱり水上勉だなあと納得したのだった。