酒に負ける弱さ 告白選ぶ理性 ともに人間
(ロバート・ゼメキス監督、公開2013年3月、DVD)
腕のいいパイロットが、飛行中に機体不良で制御不能に陥った旅客機を、背面飛行と胴体着陸という離れ業で102人のうち96人の生命を救う。
しかしパイロットは実はアルコールとコカインの中毒に陥っていて、事故後の血液検査でそれが判明する。事故調査委員会の公聴会で、腕のいい弁護士がパイロットの弁護に立つところからが、この作品のヤマ場だった。
パイロットの日常生活が明らかになるにつれて、この中毒の恐ろしさがじわじわとぼくにも浸みてきた。事故後もアルコールの誘惑を断ち切れないパイロットの姿に、暗然とせざるを得なかった。
それでも、公聴会の最後にパイロットはうそを続けるのが嫌になり、すべてを白状してしまう場面では、少しほっとする自分がいた。
■ 難役のデンゼル・ワシントンがすごい
パイロット役のデンゼル・ワシントンは、うますぎる、という表現しか浮かばない。知的で理性的なアフリカ系アメリカ人の印象が強かった。この作品では、優秀だがアル中を隠すパイロットという難しい役を通じ、人間の弱みと、最後は告白する理性的強みの両面を見せた。やはりこの人は適役だったのだ。
米社会にアルコールや薬物の中毒患者はどれくらいいるのだろう。誘惑に耐え切れず、ちょっと一杯が深みにはまっていく過程の描写と心理は、酒好きのぼくにもよくわかる。ぼくもそうなるかもしれないという怖さもあるだけに、最後の場面でほっとすると同時に、観終わってやはり、救いがない気分も残った。