5 映画 銀幕に酔う

邦画『そして父になる』

実景の丁寧な作り込み 取り違えに普遍性

 (是枝裕和監督、公開2013年9月、ミッドランド)

 是枝裕和が監督し、福山雅治が主演する最新の話題作だ。作り込みがこの監督らしく、実にていねい。普通のマンションと店舗つき住宅、外食のありふれた日常、私立小学校の面接…。日本の暮らしの実景を細かく映し込んでいる。

 こうした日常感は、日本人でないと細部のニュアンスまではわからないのではないだろうか。でも報道によれば、カンヌ映画祭では上映後にスタンディングオベーションが起き、審査員賞を受賞した。

 病院での出生児取り違えという不幸を題材にし、それを乗り越えていく家族…。取り違えは世界のどこでも起こりうる不幸で、テーマそのものは普遍的だ。つくりがていねいで細部をないがしろにしていないことが、普遍的テーマをよりきっちりと伝わることにつながり、評価されたように感じる。

 さらに映画は、主人公が父性に目覚め、子どもの心の側に立ち触れ合いを密にしていこうと考えるところで終わる。すでに成人した子ども3人の親としては、子育ても、それから本当に父になるのもこれからでは、という物足りなさが残った。

 でもよく考えれば、脚本も書いた是枝監督は「ここまでくるのが大変。後は普通のお父さんたちの苦労と同じ」という考えなのかもしれない。

 福山雅治は建設会社のエリート建築家として出てくる。知的さと合理主義と仕事大好き感をありあまるほど上手に出している。歌手だけど、あのガリレオ博士の役といい、クールなインテリ色は素地なのだろうか。

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