大胆かつ斬新 富士に「晴れ着」 還暦から
(愛知県美術館)
圧倒的である。色使いも構図も大胆で斬新だ。この人しか描けない。
しかも作品の数がすさまじい。そんなに描き続けたいのですか、そんなに描き続けられるのですか―。答えはわかっていながらそう尋ねたくなってしまう。そして答えを聞く前に、勝手に唸りながらうなずいてしまう。
さらにもうひとつ。90歳を過ぎても違う世界に挑み、基本となる裸婦デッサンを怠らない。継続できる力と本能。それを持つ人を天才というのだろう。
著名な「面構」や「富士山」のシリーズは、なんと、60歳を過ぎてから描き始めたらしい。
ぼくは「富士山」シリーズがいちばん印象に残った。5月に参加した「クラシックホテル三連泊」のバス旅の帰路において、現物の富士山をいろんな方向から見上げた。ぼくの目に残っている色は、斜面の墨、樹林の暗い黒から濃い緑、山頂付近の白…。ごく常識的な写実の世界である。
ところが彼女は富士に「晴れ着」を着させてしまう。それも飛びっ切り派手な原色模様である。あまりに突き抜けていて、逆によく似あっている、と感じる。人の能力や持続力はどこまで奥が深いのだろう。まいりました。
■愛知県芸大の壁画が出会い
ぼくが昭和46年に舞鶴から名古屋へ建築学生として出てきた時に、この画家は愛知県立芸大の先生だったと記憶していたが、展覧会の年譜を見ると、その通りだった。
ぼくはその年、名古屋周辺の名建築を見て回った。長久手の県芸キャンパスもそのひとつだった。入り口を入るとピロティ式の講義棟と妻面の壁画が目に飛び込んできた。あの壁画がこの画家との初めての出会いだったらしい。 あれから44年、これほど多彩で新しい世界をその後も描き続けた女性とは知らなかった。観てよかった。