「もっと肉を 光を」 歯切れいい勧め連発
(バジリコ、2020年6月25日)
筆者は60歳になったばかりのアンチエイジング専門医だ。心と体はひとつながりだから、どちらかが不調になると片方もおかしくなっていく―。それを前提にわかりやすく歯切れのいい「生き方指南」が並んでいる。あれこれ思い悩む前に肉を食べ外へ出て、好きな道をまっすぐに歩いていこうという励ましだとぼくは受け取った。
■引力あるフレーズ
5つの章から成り、どの章にも小見出しがいくつも並んでいる。そのどれもが簡潔でわかりやすく、語呂がよくてキャッチーだ。ぼくの目と頭に食い込んできたのを拾い出してみると―。
- 定年という差別制度 / 反逆の旗を振れ
- 人は「心」から老化する / 孤独はそれほど悪くない
- もっと肉を / ちょいポチャのすすめ
- もっと光を / 運動は面倒だが役に立つ
- 酒とたばこという名の悪女
- 高年者にとって「がまん」は美徳じゃない
- ギャンブルは前頭葉の大好物
- 好色のすすめ / 恋は遠い日の花火ではない
- ネットを活用して脳を活性化 / テレビを捨てて街に出よう
- クスリと書いてリスクと呼ぶ / 健康診断は受けない
これらを読んでいくだけで、これまでの常識や世間体や思い込みから解き放たれる気分がしてくる。みずからの「健康な欲望」に沿って生きてみたらどうだろうか、という提案も伝わってくる。
似たような前向き指南は、ほかにも週刊誌で断片的に読んだりテレビで聞いたりしてきた。しかし筆者はアンチエイジングとカウンセリングの専門医としてデータや研究結果に基づいている、と強調している。威勢のいい提案を医学的な説明で補強しているところも多い。
そのあたりの説得力も、地味な題名にもかかわらず8刷を重ねている理由なのだろう。読みながらぼくは弘兼憲史の劇画『黄昏流星群』やエッセイ『男子の作法』を思い出していた。人生や生き方についてだれかに肯定的に語りたくて仕方がない。二人にはそんな性(さが)を感じる。
■受験・教育でも著作多数 映画の監督も
読み終えてから、この筆者のことをネットのwikipediaで読んでびっくりしたことがある。まだ20代だった1980年代から信じられないようなハイペースで本を出してきていた。それも当初は受験ノウハウものばかりだった。
経歴には高校のころは作家にあこがれていたと書いてあった。灘高から東大理Ⅲへ進んだ経歴と、文章を書きたいという意欲や書ける力が重なった結果なのだろう、とぼくは推測した。
40歳になった2000年ごろから医学系や心理系の本が増えてくる。人生全般のノウハウ本も多い。本屋さんで平積み本や背表紙を眺めていくと、いろんなコーナーでこの著者名を見るのは当然だった。
これだけの数を出し続けると濫作がすぎるのでは評価もあるかもしれないが、この本では、そうした著作歴が内容のわかりやすさと見出しの歯切れ良さを生み出しているように思う。
もうひとつの驚きは映画の監督もしていることだった。wikiによれば映画も高校時代から大好きだったという。作品は国際的な賞も得ている。こんな活動歴もこの本に出てくる指南「欲望を肯定する」「常にイキでカッコよく」につながっているのかもしれない。
■受け止めは方は健康度しだい?
この本で示された指南や提案をどう受け取るかは、読者の健康度によるだろう。心か体のどこかがすでに具合が悪い人は、とても真似できないと端からあきらめる確率が高そうだ。いちばん多いのは、部分的には参考になるけどいくつかは抵抗がある、という人だろう。
この本がいちばん響くのは、50代から60代で心も体もまだそれほど衰えを感じていないグループではないか。元気と勇気をかなりもらえると思う。ぼくはできればこのグループに入ったまま、納得できるところはできるだけ実践してみたい、といまは思っている。