記憶の濃度と持続力 知の発熱と突破力
(講談社、2019年)
恥ずかしながら、いまごろになって佐藤優氏の著作を初めてまともに読んだ。この本のテーマは、彼が得意とするとされるインテリジェンスや外交、ロシアや神学などの硬派ではない。強面の写真から受ける印象からも遠い。だからこそ読みたくなった、ともいえる。たしかに前代未聞の緊急出版である。
佐藤氏と豊島氏は埼玉県立の浦和高校で同級生として出会った。当時から「超」がつく進学校だったらしい。愛知でいえば、旭丘を男子校にしたようなものか。
豊島氏は一橋から日本債券信用銀行へ。佐藤氏は勉強よりも政治活動に関心が向き、一浪して同志社の神学部、外務省のロシア専門家へ。
佐藤氏は44年ぶりの同窓会で再会した際に豊島氏がすい臓がんと知り、それまでの人生を本にすることを「決意」する。そこが最初の驚きだった。
ふたりがいかに高校時代に濃密な青春時代を過ごし、たがいに強く刺激しあったとはいえ、それをばねに豊島氏の人生をたどり本にしようと決意できるとは―。豊島氏が入った銀行がその後、いわゆるバブル時期の融資の問題を経て、信じられない末路を迎えた経過をきちんとフォーローしたいというのも理由になっていたように思う。
それにしても、ふたりがすごした高校時代の記憶の濃度とその持続力もすごい。佐藤氏の生身の血流が、すさまじい熱量をもって文章にあふれている。このあたりが佐藤氏の突破力、知のエネルギーの発露なのだろう。この表現意欲、社会への発信熱には度肝を抜かれる。あらためて脱帽だ。