こだわりと奥深さ フランスならではの世界
(リクスチャン・ヴァンサン監督、公開2013年9月、伏見ミリオン座)
この作品の「大統領」はあのミッテランである。彼が大統領(在任は1981年5月~1995年5月)だった時の担当シェフが主人公のモデルになっている。肝はこのシェフがなんと、中年女性であることだ。
フランス人の料理へのこだわりと、それにもとづくフランス料理の奥深さに今更ながら感心する。一体、何種類のレシピが出てくるのだろう。
これを日本に当てはめると、老舗料亭の板長が首相官邸シェフに就くつくようなものだ。そんな映画は日本で成立するだろうか。日本料理の奥深さをここまで出せるだろうか。漫画『美味しんぼ』ではかなり迫ることができていると思うので、俳優と撮り方次第なのかもしれない。
十二分に楽しめたけれど、物足りなさや注文もいくつか残った。
まず大統領を演じた俳優への不満。ぼくが知るミッテランはもっと体が大きく、グルメで女好きらしいフェロモンがぷんぷんしていた。映画では「枯れたじいさん」のようだ。フランスの映画関係者や国民が抱くミッテラン像は映画の通りで、ぼくの印象がニュースから得た虚像なのだろうか。
女性シェフはエリゼ宮の大統領担当シェフを2年つとめた後、南極のフランス基地の料理人となる。映画はその2か所でのシェフの日々を交互に描いていく。大統領が好んだのが素朴な家庭料理なので、女性シェフの育ちや家族、ミッテランの故郷の光景も取り入れてほしかった。
映画ではできあがった料理も主役のはず。完成した料理の見栄えや、大統領が最初に口に含んだ時の表情ももっと観たかった。
新聞の映画評がよかったので、伏見ミリオン座で妻と観た。似たような女性料理人の物語としてデンマーク映画『バベットの晩餐会』(日本公開1989年)を思い出した。もう一度、見直したくなった。