自然美と戦略性 贅沢な時間
コース設計の名匠・井上誠一の後期の代表作、南山カントリークラブ(愛知県豊田市)が公式競技の会場になり、6月13日と20日にラウンドした。フェアウエーは尾根と谷筋を縫うように配置され、屈曲と凹凸が重なりあっていた。露出した巨岩が挑戦心をくすぐり、風雪を感じさせる二本松が悪戦苦闘を見守ってくれた。自然美と戦略性の融合につつまれ、5回目の巡礼記も贅沢な時間になった。
この公式競技はミッドシニア(65歳以上)とグランドシニア(70歳以上)の中部選手権。ともに中部ゴルフ連盟が主催している。南山CCは予選会場のひとつになり、13日は練習ラウンド、20日に予選本番があった。
■ゴルフ脳がフル回転 3つの特色
1週間あけて2度ラウンドしてみて、プレーヤーの視点から特色をまとめると次の3つになる。
<特色1>「尾根と谷筋」×「屈曲と凹凸」
ほとんどのフェアウエーは、尾根と尾根の間に横たわったり、谷筋に沿ったり、あるいは谷をまたいだりして配置されていた。このため、フェアウエーの多くは屈曲している。
さらに上りと下りのアップダウン(凹凸)がそこに加わる。グリーンが見えないことも多く、どこを狙って打てばいいのか、わが身の飛距離や正確性と天秤にかけることが続くため、ぼくのゴルフ脳はフル回転させられた。
<特色2>巨岩と池にざわつく心
8番ホールには名物「ロックバンカー」があった。フェアウエーの右側に大きな岩が露出したままになっている。球が岩に直接当たればどこへ跳ねるかわからない。転がって岩に乗っても、そのまま打つしかない。左へ避けるべきか、あえて上を越えていくか―。ざわつく心を抑えられなかった。
9番と16番には、フェアウエーを横切って池が走っている。今回の2ラウンドは、ティーが前だったのでさほど気にならなかったが、50ヤード以上後ろから打つとしたら悩んだだろう。
<特色3>風雪の松 「2本」「夫婦」の微笑
コースではいろんな形の松がプレーヤーを迎えてくれる。開業から来年で50年。枝ぶりには風雪に耐えてきた年月が感じられ、幹と幹の間の向こうにピンフラッグが見えると、ああ井上誠一だと、うっとりできた。
異彩を放っているのは8番の「夫婦松」だった。グリーン奥の斜面に、2本が15mほど離れて植えてあり、枝ぶりを競っている。この”夫婦”がゴルファーにどう見えるかはグリーンの結果しだい。納得のパットを打てれば「抱擁」、失敗すれば「対峙」に見えるだろう。ぼくは2度とも2パットで「微笑」だった。
次の9番ではもうひとつの名物が待っていた。ティーインググランドの眼下に大きな池が斜めに横切っていて、その向こうに「二本松」が立っている。幅は8mほど、今回のティー位置からは180ヤード地点にあり、「ここへ打っておいで」と誘う。ぼくのドライバーは1度目は左、2度目は右へ着弾した。
■会員権探しで知った「井上誠一」
南山でプレーするのは初めてではない。ゴルフを始めて5年ほどたった1990年ごろ、職場コンペで何度かラウンドした記憶がある。しかし当時は井上誠一の名前すら知らなかった。
バンコクから帰国した2001年秋、本格的にゴルフに取り組むため、メンバーになれるゴルフ場を探した。会員権仲介会社のリストに南山CCがあり「名匠の設計」と書いてあって井上誠一の名を初めて知った。所属クラブとしては結局、交通の便を優先し東名古屋を選んだが、「井上誠一コース」はその後の憧れになってきた。
愛知県に3か所 全国には未体験が32も
山田兼道氏の写真集『大地の意匠』によれば、井上設計コースは全国に38あり、ぼくが住む愛知県には3コースある。そのうち愛知カンツリー俱楽部(1954年、名古屋市)、春日井カントリークラブ(1964年、春日井市)はすでに巡礼記を書いた。
この南山CCは豊田市中金町の山間部にあり、1975年に開業した。井上は当時67歳で、年譜によれば、38コースのうち34番目になる。写真集は「後期の代表作」と呼び、クラブのホームページは「晩年の傑作」と位置づけている。
南山より後の開業は葛城(1976年、静岡県)、大原・御宿(1982年、千葉県)、浜野(1984年、千葉県)、笠間東洋(1985年)の4コース。このうち葛城と笠間東洋は高校の同級生とラウンドし、巡礼記の4と1に書いている。巡礼記を書いたのは、南山が6コース目になる。未体験の井上コースは全国にまだ32か所もある。
■(補足) 「74」で予選通過 秋に「全国」へ3度目挑戦
南山CCでの20日の予選は、Par72、距離6009ヤードの設定だった(下記のGDOの距離表示とは少しずつ違っている)。72歳のぼくは4バーディー、6ボギーの2オーバー「74」で回ることができ、予選を通過できた。65歳以上のミッドでは出場62選手のうちの6位タイ、70歳以上のグランドでは出場60人のうちの2位タイだった。
「74」は、39年に及ぶゴルフ歴において、競技やコンペでは最小だった。これまでのコース距離は大半が6500~7000ヤードだったので、今回の6009ヤードだと「競技での自己ベスト」と称するには抵抗がある。でも名門コースでの公式競技だったから、これからの自信と励みになってくれるだろう。
次の中部地区決勝は、ミッドシニアが9月に、やはり井上設計コースで自宅に近い愛知CCで開かれる。グランドシニアは10月に葵CC(岡崎市)での開催。どちらもぼくにとっては「初の全国切符」を目指す場になる。昨年まで2年続けて中部決勝には進めたものの、ミッドもグランドも上位には入れずに全国には届かなかった。「中部の壁」は厚い。3度目の挑戦へ向けて、この夏の練習の目標ができたのが、いまはうれしい。