すばらしい着眼…敗因7つはまだ多い
(ダイヤモンド社、2012年4月)
帯の惹句に「なぜ日本は、戦前の日本軍と同じ過ちを、いま政治や経済でも繰り返すのか」とある。名著をいま読み解いて、エッセンスを危機に生かそうという狙いはとてもよくわかる。いい着眼だと思う。
ぼくは、あの大戦をなぜ引き起こしたのかという興味と、「同じ過ちを繰り返さない」を新聞にあてはめることができるかという関心から読んだ。
序章で「七つの敗因」を抜き出している。ビジネスでも使えるようにと。
- 戦略性 大きく考えるのが苦手。俯瞰的に見た最終目標を作れない
- 思考法 錬磨は得意だが、革新は苦手
- イノベーション 既存ルール習熟ばかり目指し、自分ルールを作れない
- 型の伝承 「方法」に依存し、「創造」に向かわない
- 組織運営 上層部は現場活用が徹底的に下手
- リーダーシップ 欠如していたのは現実直視と優れた判断
- 日本的メンタリティ 「空気」の存在と現実逃避への集団感染
それぞれはわかるが不満が残った。項目がまだ多すぎて「本当の本質」や戦略を明示しきれていない。原典への入門書にはなっても、ビジネスへの転用は難しいのでないか。多くて5つ、できれば3つに絞ってほしかった。
1年前に読んだ藻谷浩介『デフレの正体』は、前半で生産人口減少が根本原因としたうえで、明確な処方箋を3つ提言していて、明快だった。
原典の『失敗の本質』は1984年刊。日本軍の戦術と組織を再研究し「なぜ敗れたか」をまとめた。組織論や軍事史の研究者6人が執筆している。この本の存在や価値をぼくは恥ずかしながら、今回の本が出るまで知らなかった。
原著は6つの軍事作戦についての専門的分析が多く、とっつきにくいという。この『「超」入門』は、日本の政治経済の閉塞状況をだぶらせながら、使える「本質」に迫ろうとしている。次は『実践論』に期待したい。