水爆実験と破壊剤 シリーズの原点ここに
(本多猪四郎監督、1954年11月、NHKBS)
この歴史的な名作、後のシリーズの第1作が発表されたのは1954年だから、ことしで60年になる。節目の年にあわせてNHKKのリメークをBSで観た。リメークといっても内容は同じで、映像を鮮明にする技術が施されているそうだ。
多くの人が言うように、いま見ても、テーマも人物描写もまったく古びていない。登場人物たちの人間模様や恋愛心理もていねいに描かれ、政治的な駆け引きももちろん交錯してくるが、骨格は次の3つだ。
- 米国の水爆実験で海底に眠っていたゴジラが目を覚まし、東京を襲って街を破壊する―。
- 古生物学者の志村喬は学者としての関心と同情を寄せるが、治安当局は「何とか殺せ」-。
- 志村の愛弟子が密かに開発した「酸素破壊剤」を使って海中でゴジラを葬り、自らも命を絶つ―。
この作品が名作とされ、この後にたくさんのシリーズを生む原点は、ゴリラ誕生の原因となった「水爆実験」と、ゴリラを死に至らしめる手段に使われた「破壊剤」の設定にあるのだろう。
愛弟子は「破壊剤」が平和利用するには未完であることと、いま世に出せば戦争に使われると予測していたから、ゴジラ死滅とともに自らも死を選ぶ。そこには明確な反核意識と、世の科学者への「良心を呼び戻せ」という訴えが込められている。技術をコントロールできないまま戦争や政治の手段にしてしまう人間への怒りと悲しみも。
この映画で使われた特撮も、あまりにリアルに見えすぎる現代CGよりも、ぼくの心の中に深く入り込み、心情に訴えてくるものがあった。演劇の舞台の「省略の力」のように響いてくる。
観てよかった。日本映画への誇りを覚え、知的興奮も味うことができた。