2 小説 物語に浸る

葉室麟『峠しぐれ』

テンポと余韻のエンタメ路線

 (双葉文庫、初刊は2014年)

 期待を裏切らないテンポの良さと余韻である。双葉文庫に葉室麟が書くエンタテイメント時代小説の3作目だ。

 第2作『蛍草』であまりの面白さに驚き、第1作『川あかり』を読み直してみて、こんなにわくわくする小説だったっけ、と二度びっくり。自分の読書記憶力の劣化が情けなくなるのは毎度のこととなった。

 その勢いで買ってきたのがこの第3作である。主人公の半平と妻の志乃は、あまりにも善い人たちで、魅力がありすぎるぐらいだ。これはエンタテイメント路線だからいいのだろう。女性に対する敬意もやさしさも、葉室流ともいえる境地の中で昇華して書かれている気がする。

 ただ、はさみこまれた藩の権力争いの説明が少し長くて、くどい気がした。姫君が若殿の格好をして江戸へ向かうくだりは、母親としての志乃の思いを描いたのかもしれないが、ない方が物語全体がもっと締まった形になっただろう。これはもう、熱烈なファンならではの感想の域かもしれない。

 第4作『あおなり道場始末』も店頭に文庫で並んでいる。続けて読もうか、何冊か別の作家をはさもうか―。こんな迷い事は、楽しい。

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