よく思いつくなあ ここにもプロの技
(2007年、講談社文庫)
これも読み直しシリーズの一冊。ゴルフトゥディ誌に連載した「ゴルファーたちの話」から30話を抜粋し収められていると巻末にある。
強く記憶に残っていた作品がふたつ、みっつあった。読み直しのゴルフ本では、もっとも面白かった。
読み終わった後に目次を見ながら、内容を思い出しながらこれは秀作というのに丸をつけていったら、12作もあった。
中でも、スコットランドへゴルフ旅に出た男の連作がもっとも心に響いた。「前夜のパブ」と「カーヌスティの詩人」。ぼくがあこがれるスコットランドのリンクスが舞台だ。
前者はプロツアーの元審判と知り合う話で、まったく知らない世界だった。後者は有名な全英オープンでのバンデベルデの悲劇の舞台をプレーする男とキャディのストーリー。男は日本で事業に失敗し、カーヌスティでプレーしたら自殺するつもりだったが、男性キャディの詩心に助けられて自殺を思いとどまる―。いいなあ。
「博士の愛したスコア」には、意表を衝かれた。ゴルフ好きの数学者と、とても気の利く女性キャディの組み合わせならでは出来事だ。
18ホールのすべてを3打ずつであがる「54」が理想、という話は本か雑誌で読んだことがある。この「博士」はアウトの9ホールのそれぞれの打数を1から9まで並べる話だ。パー3のうちひとつはホールインワンが必要だし、あとひとつのパー3をバーディーにするか、パー4でイーグルがいる。
9番のパー3で「1」を出せば達成ということに気づいて、博士を励ますキャディの名が「五木二三子(ふさこ)」。作者のユーモア心が満載である。
まあ次から次へと、どの作品もプロットが巧みで、よくもまあ思いつくなあと感心してしまった。作者の中原まことさんは、1949年生まれの団塊世代。漫画原作者としてゴルフダイジェストの「千里の道も」を手掛けたらしい。ストーリー作りがうまいはずだ。
僕もゴルフも文章を書くのも大好きだけど、こんな短編はとても書けない。やはり何でも、プロは違う。すごいなあ。